フィジーでのコロナ関連情報の更新第9版です。
大規模ワクチン接種が始まったフィジー。5月3日からの1週間で接種数が20,000件を超えました。日本ではいまだ調整中の大規模接種。ワクチン接種の段取りにおいては残念ながら日本はフィジーに追い抜かれてしまったようです。
5月3日以降、1日4,000件のペースで接種が進んでおり、最初の一週間で全人口の3%が一回目の接種を追えたことになります。全世界的にコロナワクチンが不足する中、フィジー政府はどのようにワクチンを安定的に入手しているのでしょうか?
最新のコロナ感染情報とお合わせてお伝えします。
【ニュース】フィジーで広がるコロナ市中感染。大規模な院内感染なし
まさかの西部最大ラウトカ病院封鎖も、懸念の大規模な院内感染は回避。
5月4日にフィジー初めての市内感染からの死亡者が出た、西部地区最大のラウトカ病院。別の原因で入院したものの、再三PCR検査を拒否し続けた患者が最終的に医師2名の感染を引き起こしたのち、亡くなりました。
この患者は亡くなる直前での検査で陽性反応となり、感染経路不明の事例となりました。ラウトカ病院の封鎖及び出入りした医師・スタッフ・患者を再招集が行われ、大規模調査が行われました。
その後、患者の入院していた、隔離病棟においては、スタッフ全員が陰性という結果が出ました。大規模な院内感染が起きている可能性は低くなり、ラウトカ病院は機能を回復し、コロナ専用病棟としての運用がされていく見込みです。一方で、この患者の感染源は病院内ではなく、市内感染だったということがいえるため、引き続き厳格な接触者の隔離と、追跡調査が行われています。
フィジー政府主導のもと、市内の私立病院と公立病院が連携。
地域最大のラウトカ病院(公立病院)が外来を受け入れられなくなったことを踏まえ、フィジー政府は地域の私立病院での診察を促しています。フィジー国民は公立病院での診察が原則無料であるため、市立病院での診察についてもフィジー政府からの支援金が出るスキームです。
また、フィジーは”Screening Clinic”という、発熱外来を通常の外来と別に設定しており、コロナの陽性が疑われる患者とその他の病気の患者が交わらない動線を作っています。
【ワクチン】フィジーにおけるワクチン接種の仕組み
途上国フィジーを支えるCovaxシステム
フィジーでは自国でのワクチン開発ができないため、すべて輸入に頼っています。現在の世界供給不足を乗り越えるためにフィジー政府が活用しているのが、Covaxという仕組みです。これは日本を含めた、180以上の国と地域が加盟する、WHOが主導する低所得国にもワクチンをいきわたらせる仕組みです。
これまでの輸入分はCovaxシステムを通じてフィジーに供給され、無料で接種が進んでいます。
フィジーで接種されている、ワクチンの種類
フィジーでは現段階においてすべてアストロゼネカ製のワクチンが使用されています。そのため、現段階でも18歳以上の国民が摂取対象となっています。今後輸入されるワクチンについて、明確にどのメーカーのワクチンを使用するかは案内がされていません。
近隣諸国からの援助の獲得
日本でも報道されている通り、世界全体ではワクチンの供給は足りていない状態が続いています。当然その中核をなすCOVAXシステムを通じた供給も、現段階においては資金不足などの課題を抱えており、待ちの姿勢では安定供給が見込めません。
これに対し、フィジー政府は近隣のオーストラリア、ニュージーランドへの働きかけをし、ワクチンの輸入確約に至っています。オーストラリア、ニュージーランドは厳格な国境管理が功を奏し、現段階では比較的コロナウイルスの封じ込めに成功しています。医療水準の低いフィジーにおいて、ワクチンは死活問題であり、これらの国からの輸入を迅速に実現できたことで、さらなる接種率の向上が見込まれます。
さらなる詳細情報はフィジー政府公式サイトをご覧ください。
http://www.health.gov.fj/covid-vaccine/vaccine-faqs/
【考察】フィジー政府のコロナ対応から日本が学べるものとは
発展途上国、医療弱国として、したたかに準備を進めてきたフィジー
フィジーは自国でコロナワクチンを開発する技術はありません。また病床数も限りがあり、コロナの蔓延に耐えられる国ではありません。だからこそ2020年3月、初めてのコロナ感染者が発生した際には厳密なロックダウンを遂行し、その後もGDPの40%を占める観光業を犠牲にしてまでも厳格な入国管理に基づき、コロナフリーを維持してきました。
2021年4月、約1年ぶりに発生した市中感染に対しては、この1年での大きな進化が見られます。例えば、ワクチンの確保。医療従事者向けには3月9日に12,000件分のワクチンを、太平洋諸国では最も早く輸入しています。ワクチンが足りなければなんと生産国ではないオーストラリア、ニュージーランドにまで融通させるという発想、外交努力も驚くべきものだと思います。
また、この記事で紹介したような、院内感染時の対応、公立病院封鎖時の連携など、矢継ぎ早に対策が打てています。2020年には、厳しすぎるロックダウンの影響で多くの日本人、近隣の国々の観光客や留学生が出国できなくなるという問題も生じましたが、今回は初期段階おいて、出国者のみ特別な移動を認める、など柔軟な対応も見られました。
日本が学べる事。論点の整理と、情報開示。
心配だらけの日本。フィジー流なら、オリンピックを活かしたワクチンの迅速化もあり得た?
大規模接種がいまだに始まらない日本。オリンピックのことばかり話している日本。なぜこのようになってしまったのでしょうか?
2020年末、世界中でワクチンの生産と供給計画が論点になっていた時、日本の報道はワクチンの副作用について躍起になっていました。ワクチンは危ないか、危なくない、というのが論点となってしまい、政府もメディアもその対応に追われていました。一方、同じ番組の同じキャスターが今度は翻って、「ワクチンが遅い」「ワクチンさえあればオリンピックが開けた」と言っているのを先日見ました。
もちろんワクチンの安全性や有効性についての議論は大事ですが、結果として、日本は当時すべきだった議論ができていたのでしょうか?首相がわざわざアメリカに行って、「ファイザー社の社長に電話をする」というのが4月中旬、それによって追加の供給を確保したと発表されました。この電話は、訪米しないとできなかったのでしょうか。
例えば、「オリンピックを安全に開催するまでに、いったいどれくらいの接種率が必要なのか」。難しい論点でしょうか?そのために供給量にどれくらいギャップがあるのか?ギャップを埋めるためには、どんな手段があるのか?普段学校の試験対策や職場の売り上げ対策などで行われているような議論、もしかしたらできていたかもしれません。
フィジー政府の場合、COVAX以外にオーストラリア、ニュージーランドからワクチンを輸入したのが面白い事例だと思います。国内で広がる変異種に対し、COVAXの供給ペースが足りないのは明らかです。これに対し、生産国でもない周辺国にアプローチをし、しかもその国の国民よりも優先してワクチンを入手出来ているということは、日本も学べる発想、それこそオリンピックの活用法の一つだったかもしれません。
「分からないことは分からない」。勇気をもって情報公開を進めるフィジー政府
フィジー政府のFacebookやinstagramなどをぜひフォローしてみてください。インフォグラフィック(情報を絵にしてわかりやすくしたもの)や、簡易的な絵など、親しみやすい案内が多くされています。また、繰り返し繰り返し同じ注意を重ねることで、リマインド効果を図っています。例えば上記のScreening Clinicは毎日SNSで発信されています。
案内の内容は、徹底して情報が開示されています。今日はどこで何歳の人がどういう経路で感染した。または感染経路が「分かっていない」からリスクが高い、など。一見、国民が不安になりそうな情報も、それに対しての具体策も流すことで、非常事態にうまく対応しているように見えます。
また、内容は「決断的」「決定的」な内容が多いです。○○に対して、こう決めた。や、いついつまでに決めて発信する、といった具合です。日本のように、「これから専門家の意見を・・・」といった、私は決めません、という態度のニュースは基本的には流れません。
決して、フィジー政府が正しい、日本がだめだ、ということを言いたいのではありません。日本でも本当に多くの方が政府、報道機関でご尽力されています。ただ、こんな小さな国の例として、何か少し日本でも採用できる面があれば、それは取り入れる余地が少しあるかもしれないな、と思っています。
日本の中で日本のメディアだけに触れていると、情報が偏ります。少し海外の情報を生活に取り入れることで、相対的に日本が見えてくるかもしれません。
過去記事:フィジーコロナ情報⑧西部最大のラウトカ病院封鎖へ。変異種広がる。
SIFジャーナルの過去の記事はこちらから。
また、現地では日本大使館から邦人向けに随時案内が出ています。以下のリンクに要約とこれまでの案内をすべて一覧にまとめてあります。お役に立てば幸いです。