今回はフィジーの貧困問題とその原因についてです。
以前に、フィジー政府が自主的にまとめているSDGsレポートの「目標1 貧困をなくそう」について記事を書きました。
その中ではフィジーの貧困の現状は、改善の兆しがあるとされていました。
ですが、フィジーの貧困問題は本当に改善されているのでしょうか。
政府発行のレポートを信用していない訳ではありません。
ただ、もう少しフィジーの貧困問題の現状や原因について、色々考察してみたいと思ったのです。
この記事を読んで頂ければ、注目されることの少ない、フィジーにおける貧困問題の現状を知ることが出来ます。
フィジーはリゾートが有名ですが、その歴史や国民性、地理的要素をふくめ、知っていくと非常に魅力のある国です。
この記事を通じて、フィジーの貧困問題とその原因について一緒に考えてみましょう。
まずは政府のレポートを確認したい方は、リンク先をご覧ください。
原文は英語ですが、日本語でかいつまんでいるので5分くらいで読んでいただけます。
SDGs|目標1|貧困をなくそう|フィジーのSDGs1への取組みと実態
フィジーの貧困問題は本当に改善されたのか
まずはデータを再確認してみます。
Asian Development Bankによると、2019年時点では国民の29.9%の人が、貧困ライン-the National Poverty Lineを下回る生活を強いられているそうです。
29.9%
皆さんはこの数字をどう受け取るでしょうか。
数字の受け取り方は個人差があります。
でも29.9%ってちょっと高くないですか?
3人に1人が貧困ラインを割り込んだ生活をしている計算です。
他の国のデータもあったので比較してみます。
カンボジアで17.8%、バングラディシュで20.5%、パキスタンで24.3%です。
やはりフィジーの29.9%は他国と比較しても高めのようです。
一方でフィジーの貧困ラインを割り込んだ生活をする人の率は、過去の推移を見てみると、2002年から2003年には35%を超えています。
過去と比較してみると、政府の言うとおり貧困は改善傾向にあるようです。
ここまでで分かったことは、フィジーの貧困は「改善はしているが、未だ高水準にみえる」ということです。
では、フィジーの貧困問題の原因は何なのでしょうか。
ここからはフィジーの貧困問題の原因について考えていきます。
貧困問題の原因は急速な都市化による農村部の孤立
フィジーは発展途上国に多く見られる、急速に都市化が進んだ国です。
一部の都市では他の先進国のような暮らしをする人々が増えています。
その一方で、農村部には昔ながらの生活・仕事をする人が残っています。
そんなフィジーの農村部では、十分な雇用機会がありません。
また、資源へのアクセスや実用的なスキルを身につける機会も得ることが難しいため、働きざかりの層がどんどん都市部に移住しています。
つまり貧困の原因の一つは、この農村部に残された人々がますます貧困になる仕組みにあります。
家計消費支出調査-Household Income and Expenditure Survey (HIES)によると、フィジーの農村部に残っている家族のうち、75%以上が貧困ライン以下の生活をしています。
清潔な飲料水や適切な衛生設備を利用できるのは50%に過ぎません。
さらに、これらの農村部の子どもたちのうち、早期教育を受けられるのは5%以下です。
地域別に見るとよりはっきり見える貧困問題の原因
また、貧困率を地理的に見ると、北部の貧困率が29%と最も高く、中部の貧困率が14%と最も低いことがわかりました。
北部は商業や政府機関も少なく、中部、南東部に位置する首都Suvaなどの都市部に経済・政治の主要機関が密集しています。
仕事の集まるところには人が集まり、ますますこの格差は広がっていきます。
首都であるSuvaでは行政・商業・製造業など主要機関が集中しています。
西部には製糖業で有名なLautokaがあります。
Nadiには国際空港やリゾート地が集中しています。
ここからも首都Suvaのあるエリアをはじめ都市部に貧困の原因があるのではなく、農村部に原因があることが考えられます。
これらの地域には仕事があり、人も集まってきます。
このように国の産業や主要機関の位置からも、貧困の分布と原因を考えることができます。
子どもがいる家庭が貧困?年齢分布からみる貧困問題の原因
HIESによると、人口動態によっても貧困に差が見られたとのことです。
報告書の中では、子どもは総人口に比べて貧困状態に陥るリスクが高いことがわかったと述べています。
子ども(0〜14歳)の貧困率は32.1%で、全体の貧困率よりも約8ポイント高くなっています。
また、都市部の子どもの貧困率は22.2%、農村部の子どもの貧困率は40.9%となっており、農村と都市の格差が子どもにも広がっているとしています。
仮説としては、そもそも低所得者層ほど子どもの数が多いことが考えられます。
つまり最も貧困であるのは、農村部に住む低所得者層の子どもたちということが考えられます。
実際にデータを見てみると、約6割の子どもたちが、1日にFJD$9.3(約500円)以下の貧困とカテゴライズされる層に分布しており、Rural(農村部)で貧困率が高くなっていることが分かります。
そして低所得者層に子どもが多いことは、更なる問題を引き起こします。
子どもの貧困問題がもたらす更なる貧困のループ
子どもを持つ層が貧困であることは、子どもの将来にも大きく影響してきます。
セーブ・ザ・チルドレン基金フィジーによると、学校中退の65%は貧困と直結しています。
交通費や学費のために、多くの家族が子供を学校に通わせるのをやめざるを得ない状況が起きているからです。
さらに、今でも多くの学校は基本的な教材を必要とする劣悪な環境にあります。
2014年、政府はすべての子どもたちに初等・中等教育を無償で提供することを発表し、学校中退率の低下を期待しています。
子どもたちが貧困問題のループから向け出すためには、まずは教育の質を高めることが求められます。
フィジーの教育についてはこちらの記事をご覧ください。
SDGs|目標4|質の高い教育をみんなに|実現に向け取り組むフィジーの課題
貧困問題の今後の見通し
コロナが貧困問題に与える影響
コロナウイルスによるパンデミックは、コロナウイルスが蔓延する前に減速していた経済成長を悪化させました。
フィジーの最新の貧困統計によると、経済の動向と同じく、コロナウイルスの影響を受ける前から貧困問題の改善が停滞していました。
実際に近年の貧困率をクローズアップすると、2013-2014年の28.1%から2019-2020年には29.9%に上昇しています。
ここにきてパンデミックと国境閉鎖が経済に与えるダメージは大きく、弱い立場にある世帯やコミュニティほど影響を受けています。
パンデミックの悪影響は2021年まで続くと予想されているため、このままでは貧困率は30%を大きく超えると予想されています。
今後もコロナウイルスによるパンデミックは、貧困問題の主要因として残り続けていくことが予想されます。
SDGs 目標8「働きがいも経済成長も」とコロナウイルスの影響
コロナ以外にも貧困問題の原因に直結する自然災害
さらに追い討ちをかける事態があります。
それが自然災害による国民活動への影響です。
熱帯性サイクロン「ヤサ」や最近のバヌアレブ島の洪水の影響で、農業部門の成長が弱まり、食料不安が高まり、貧困が悪化すると予測されます。
フィジーの歴史では、気候変動・自然災害は切っても切り離せない関係です。
フィジーのSDGsの中でも目標13. 気候変動に具体的な対策を、は最も力を入れている取り組みです。
SDGs|目標13|気候変動に具体的な対策を|トップを狙うフィジーの挑戦
さいごに
いかがでしたでしょうか。
このままでは、フィジーが2030年に目指す目標の1つ、貧困削減については達成が危うい状況です。
そして貧困問題の原因は、コロナウイルスだけではなく、コロナウイルスが発生する前から存在するフィジーの複雑な構造にもあると考えられます。
我々も今後はフィジーの貧困問題に対して具体的に出来ることはないのか考えていきます。
皆さんはどのように感じたでしょうか。
改めてフィジーという国の抱える貧困問題の原因を知り、難しい問題ながらも改善に向けて何かアイデアがないでしょうか。
もしくは何か行動を起こしたいと感じたでしょうか。
もしそのような方がいらっしゃれば、”我々SIFと一緒に行動してみる”というのも考えてみて頂ければと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考: