初心者に優しい起業の仕方 | 起業家インタビュー【①前編】TAKTOPIA代表 長井悠さん

 今回は起業家さんに起業の仕方にまつわる 「知りたかったけど他には載ってない実際のところ」をお届けするインタビュー記事第一弾です!

皆さんは起業する人を特別な人と思っていませんか?

起業を考えても不安が大きく、ぼんやり考えて終わっていませんか?

社会人の働き方は本業・副業に加え、本業を複数もつように働く「複業」という考え方も加わりどんどん多様化しています。

複業が当たり前になっていく世の中で、複業の一つで起業するケースも今後増えると想定されます。

起業はもう誰にとっても遠い存在ではなく、起業の仕方は誰もが学ぶべきものになりつつあるのです。

このシリーズを読んでいただければ、全く起業を考えたことのない方でも起業の仕方、イメージを知ってもらうことができます

だからこそこの記事では普段はお話してもらえない創業時の地道な活動や、ディープな裏話をSIFメンバーが遠慮なく掘り下げ公開します!

この記事はこんな方にオススメです。

  • 起業は自分には関係ないと思っている方
  • 起業に少しでも興味があり他では聞けない裏話を聞きたい方
  • 起業に携わり経験を積みたい・成長したいのでリアルな話を聞きたい方
  • ソーシャルビジネスや社会課題への取り組みに興味がある方

記念すべき第一弾はSIFとも交友関係があるTAKTOPIA代表の長井悠さんです!

「バラバラになってしまっている教育(学ぶ)と産業(働く)を近づけ、誰もが自分の意志で生き方を選択できる成長の生態系を構築したい。」

TAKTOPIAはこの想いで世界で唯一無二のラーニングプログラムを開発し、その新規性で教育業界においていま大注目の企業です。

【プロフィール】

長井 悠

長井悠さん

TAKTOPIA共同創業者・代表取締役・ラーニングデザイナー

  • 茨城県と千葉県で育つ
  • 東京大学にて藝術学(音楽社会学)を専攻、修士課程終了
  • IBM社の中でも特に頭脳集団として知られるコンサルタントとして入社
  • 2010年:ハバタク株式会社を創業
  • 2015年:学校向け教育事業をタクトピア株式会社としてスピンアウトし代表に就任

世界でもユニークな”ラーニングデザイン・ファーム”を目指している。タクトピアでは全事業を統括し、学校・企業等の教育プレイヤーとの関係構築 ・協業可能性の開拓等をおこなう。

タクトピア株式会社 / TAKTOPIA & Co

■ 事業内容:グローカルリーダーシップ育成を目的とした、個人・教育機関向けの学びのデザイン、及びコンサルティング

■企業サイト:https://taktopia.com

【取材】SIF 2名 川上(代表)・RIKUHIRO

目次

なぜ起業するのか

長井さんは現在代表をつとめるTAKTOPIAを新会社として立ち上げる前に、ハバタクという企業を立ち上げる経験をされています。

初めての起業となるハバタクを立ち上げた時はどんなきっかけや想いがあったのでしょうか。

一人で始めたのか仲間と始めたのか。この辺りから長井さんに聞いてみましょう。

新卒2年目の衝撃から起業へ

ーー(RIKUHIRO)初めにハバタクを立ち上げた当初のことを教えてください。勤められていた会社を出ることを決めたきっかけは何だったんでしょうか。

新卒2年目の年に、世の中はリーマンショックであらゆる業界が大パニックになりました。

その時の社内の光景が非常にショッキングで印象的でした。

周囲からは社内でも特に優秀なエリート集団として見られていたコンサルタント達が、何をどうして良いか分からず右往左往しているだけのように見えました。

社会人経験は浅いながらも、”これだけ優秀な人材が集まっていても、変化に対して自分たちで主体的に事態を打開できないのか”と感じてしまったんです。

同じ問題意識を抱えた仲間との決意

その問題意識を同期の仲間と話していくなかで、根本を考えていくと教育と社会のギャップに行き着きました。

この大きな問題と向き合い解決していく道を選んだとき、「社内でやるよりも独立して新規に事業を立ち上げるしかない」という結論に至りました。

ハバタクを立ち上げた当初は同期入社の3人で始めました。

当時は2年目の社員が1年目の社員をトレーニングするという会社の伝統があり、その育成プロジェクトで出会った3人が立ち上げメンバーとなったのです。

起業にカリスマ性は必要か

長井さんは3人で経営するハバタクと、ひとりで代表を務めるTAKTOPIAで異なるリーダーポジションを経験されています。

起業には一般的には”カリスマ性”や”特別な何か”が必要というイメージを持つ方も多いと思います。

実際のところを聞いてみました。

起業当初からのリーダー像の変化

ーー(RIKUHIRO)ご自身からみて長井さんはカリスマ的に引っ張っていくタイプか、同意を得て進めたいタイプかどちらでしょうか。

僕のもともとのスタイルは圧倒的に”チームワーク重視”です。

とはいえチームで経営していたハバタクからスピンアウトして一人で代表を務めるなか、チームワーク好きだけでは難しい場面も出てきたと感じています。

だからこそ自分が代表としてしっかり決めなければならない場面では、意識的に”代表として自分が決めていこう”と言い聞かせています。

組織の代表を一人で務め会社をやっていくという点においては、まだまだ修行中だと思っています。

“主体性”がうみ出した「みんながフラットに動ける組織」

ーー(RIKUHIRO)昨年、TAKTOPIAは組織体制をピラミッド構造からフリーランス契約によるネットワーク型組織に大きく舵を切っていますね。そこには長井さんのリーダーシップのあり方が反映されているのでしょうか。

そうですね。

ピラミッド型の組織は指示が出しやすいですし、動きが早いというメリットはあります。

優秀な人が集まってきてくれたことは非常にありがたかったです。

ただ人数が一定数を超えてきた時、いわゆるピラミッド型では難しいことがたくさん起きました。

そこで自分なりに組織のあり方を考え直すことになります。

私たちが大切にしているのは主体性です。

自分の生き方は自分で決める、という信条は、実現したい教育のあり方としても大切だし、組織のあり方としても大切。

それを突き詰めると、自分のスタイルとして組織が「上司と部下」的である必要はないと思いました。

フラットにお互いプロとして付き合う方が、自分の組織に対する考え方にも目指す教育にもマッチしていると判断しました。

ただ一つ、タイミングがまさかのタイミングになってしまいました。

2020年4月1日から組織体制を変えたのですが、半年前から社員にはアナウンスをして丁寧に進めてきました。

実施のタイミングがちょうどコロナで世の中が騒然となった時期と重なってしまったので、色々大変ではありました。

起業にまつわる苦悩

起業と聞くととても困難が多く大変なイメージがあります。

起業する過程ではどんな困難や苦悩と向きあうことになるのか。

長井さんが一人で陣頭指揮をとってきたTAKTOPIAでの経験を教えてもらいました。

起業後すぐに起きた”予想外”

ーー(川上)人数が一定を超えてきた時に起こった難しいことの具体的なエピソードを教えてください(笑)

ドロドロしたところですね(笑)

組織論の教科書によると、「メンバーが10人を超えてくるところで問題が起きやすい」とあります。

僕もまさか自分のところに限ってと思っていました。

しかし、TAKTOPIAを立ち上げて問題が起きたのも、やはりメンバーが増えてからでした。

目指すべき方向性やビジョンが暗黙知のようになっていて、それがちょっとずつズレ始めたんだと思います。

単純に人数が増えたことによって、一人ずつ直接コミュニケーションできる絶対量が減っていく中で少しずつ歪みが生まれてしまった。

例えばフラットな組織を目指している中で、誰かに指示されることに不満が出てきたり。

“業務上あった方が良い指令系統と雇用体系上の矛盾点”というのも社内にあったんだと思います。

ーー(川上)なるほど、もっと具体的なエピソードも教えてください(笑)

Aさんが整理が得意な人だとして、Aさんは自分なりの責任感をもって組織内の色んなところをメンテしてくれようとします。

でも一方でオーナーシップを大切にしている会社であるがゆえに、Bさんは自分のやり方でやりたいと主張します。

するとAさんに口を出されることがBさんにとっては不快になってしまったり、Aさんにとっても良かれと思ってしたことがうまく行きません。

今思うとオーナーシップのぶつかり合いが一番多かったですね。

社員が想いを分かってくれるからこその苦悩

社員がオーナーシップを大切にしてくれるのは良いことだと思います。

でも、TAKTOPIAとして大事にしたい方針の言語化を私が緩めに考えていたせいで、それぞれが思う「TAKTOPIA流」が乱立してしまった。

この仕事は自分の仕事だから口を出して欲しくない!とか。

商品としては統一感があった方が顧客から認知もされやすく売りやすいのですが、独自性が強まって商品として難解になり、ごく少数の人しか扱えない領域ができてしまったりすることもありました。

これは無形商材ゆえの難しさもあるかなと思います。

そして平時はまだしも、仕事の現場でトラブルがあるとこの問題はさらに激化していきます。

ボストンの現場にいたときに大阪の現場のヘルプが必要になって、成田に到着してからそのまま大阪に駆けつけたなんてこともありましたね。

家族には「ごめん!今日帰れるはずだったけどあと3日帰れないわ」みたいな感じで迷惑かけました。

起業に最も大切な準備とは

起業のためには何を準備しておけば良いのでしょう。

全くの素人からハバタクを立ち上げた当時を振り返っていただき、考えておくべきことを伺いました。

起業に向けた準備

ーー(RIKUHIRO)ハバタクを会社として設立しようと思ったタイミングにきっかけなどありますか。

時間軸を具体的にいうと、法人化の可能性を話し合ってから半年くらいでハバタクを起業しています。

その半年の間に2回、起業合宿と銘打って温泉地でミーティングをして自分たちの中では”準備した感”はすごくありました。

起業に向けては自分たちなりに準備してから法人化したつもりでした。

でも今思うと全然準備できていませんでしたね。

もしいま昔の自分に会えるなら、もっと下調べしろって言うと思います。

社名も決めたしロゴデザインも決めたし、何を売りたいとか売上の予想とかは書いてみました。

でもその精度が、今思うと驚くほど低かった。

計画が使いものにならずあとで苦労するくらいなら、あの時もう少し練ったほうが良かったなと思います。

ただ先のことは結局予測しきれない、という面もあるので、計画ばかり練りすぎてもダメではあるんですけどね。

起業に向けて必ずやって欲しいこと

アントレプレナーシップ*教育を生業にしている立場から言うと、分からないことはあるものの、“誰がお客さんで何を必要としているか”は検証できます。

今ハバタクを立ち上げた当時を振り返ると、前職の職種もあり現場で物を売るという意識が希薄だったと思いますね。

理屈が正しければ相手に通じると勝手に勘違いしていました。

「教育業界にはこんな課題があって、世界にはこんな事例もあって、もう日本も早くやるしかない!」

というくらいの自信と思い込みがありました。

そして実際に事業を立ち上げてから色んな校長先生のところに直談判しに行って、初めて現実を知るわけです。

校長先生たちも時間をとって話を聞いてくれましたし、分かってはくれました。

でもそこで言われたのは「話は分かるよ。分かるけど時間も予算もないよ」

という、自分たちが想像していなかった言葉でした。

そして起業してから半年くらいは何も売上が立たず、順調に資本金を食い潰していきました。

当時はかなり焦りましたね。

*アントレプレナーシップ:起業や新規事業に必要な事業創造や新商品開発、リスクに対する積極性や能力などを指す言葉。日本語では「起業家精神」とも訳される

起業に向けた準備不足の反動

ーー(RIKUHIRO)ハバタクを立ち上げて半年ほど経った時にどんな変化があったのでしょうか。

ここは実務上すごく重要なんですが、実は全然かっこよくない歴史です(笑)

お客さんのターゲットを学生から大人に変えました。

その時点では、売上が全然立たないので資本金だけが一次関数のように減りつづけていたわけです。

「まずは生き残るために、何でもやるしかない!」

ということになり、前職の関係を頼って企業向けのコンサルティングの仕事も引き受けたりするようになりました。

それで少し事業を続ける資金を担保していったのです。

実際、いま振り返っても10年前は教育市場は難しかったと思います。

そのころちょうどビジネス界隈では「チャイナプラスワン」が騒がれ始めた時期でした。

そこで社会人がもっと東南アジアで活躍する経路をつくろうということで、早くキャッシュ化できる市場に一時避難したかたちです。

このエピソードは起業という視点からはとてもかっこ悪い話なのですが、教育の世界のある種の真理を発見する貴重な体験でもありました。

それは、「教育は上から変わる」ということです。

社会に人材を送り出すのが教育の役割である以上、産業界の要請により高等教育(大学など)が変わり、その要請で中等教育(高校など)が変わり、それを受けて初等教育(小学校など)が変わる、という順番はほぼ覆らないんですよね。

熱い思いとは別に、市場を冷静に見る視点を得られたのはとても良かったと思っています。

起業に必要な具体的なアクション

その瞬間だけみると危機を乗り越える英断のように聞こえますが、ちゃんと準備しておけばそもそもそんな必要はなかったわけですよ。

だから顧客インタビューはすごく重要だと思います

アントレプレナーシップのプログラムでもインタビューは絶対やるように口すっぱく言っています。

なんでも良いから登記*しちゃえというわけではなく、社名もロゴも基本計画もつくった上での起業でした。

でも実際には顧客を知るという準備が足りていませんでした。

インタビューもそうですが、起業する事業のビジョンについても周りの人に聞いてもらうと良いと思います。

知恵を持ち寄るなら一人より二人ですし、ベンチャーは応援してもらってナンボという面もあります。

ある意味戦略的にでも”複数人から意見を聞いてもらう”というのは効果があると思います。

*登記:会社名・会社の住所などの会社の基礎事項を法務局に届け出し、設立した会社の概要を一般に公表すること

具体的にどのように起業するのか

準備がわかったところで、今度は起業するうえでの心得や具体的にどのような形態をとっていくのかを伺います。

また長井さんはハバタクを立ち上げた際、複数人での起業を経験されているので、一人で立ち上げる時とは違った難しさがあったようです。

起業の心得:揉めごとはあって当然

ーー(RIKUHIRO)組織内での対立はできるだけ避けたいのですがどうすれば避けられるでしょうか。

事業を立ち上げるからには対立するときは来ると思って準備しておいた方が良いと思います。

ないことを信じるよりは、対立はあるけど乗り越えていくと考える方が良いかもしれない。

NPO?株式?起業の形式

ーー(RIKUHIRO)ハバタクを株式ではなくNPO法人で起業するという選択肢を取らなかったのはなぜでしょうか。

株式会社にした理由は、事業の内容が比較的柔軟に変えられるからです。

株式会社を立ち上げる時には初めに定款というのを作りますが、そこに事業内容を記載します。

定款はあとから更新していくことができるので、事業内容も好きなように変えることができます。

でもNPO*の場合は、「こういった社会問題を解決するためにこのNPOを運営します」といった定義を最初にする必要があるので、もう少し事業内容の枠がしっかりあります。

ハバタク立ち上げの時にもNPOで起業するのか株式会社で起業するのか迷いました。

でも結局自分たちが何者になるかなんて分かりませんでした。

ハバタクは実験企業と決めていたこともあって、株式会社で立ち上げることにしました。

NPOにしていたら、また違ったかたちで応援してくれる人が増えたかも知れません。

でも無理やりミッションを決めてしまって、その後大きく状況が変わったとき、自分たちのやりたいこととのギャップで苦しんでうまくいかなかったかも知れないと思うので、結果的に自分たちは株式会社でスタートして正解だったと思いますね。

*NPO(特定非営利活動法人):不特定多数の者の利益のために、法に規定された20の特定非営利活動の範囲内で、活動を行う必要がある。一方で株式会社は、法の範囲においてはどのような事業でも行うことができるため活動範囲が広い

起業前に考えるべき株式のバランス

ハバタクを一緒に立ち上げた3人は今でも仲の良い仲間関係だと思いますが、株式のバランスは非常に難しかったですね。

ハバタクはほぼフラットに株式を3人で分けて事業をスタートしたのですが、周りにはかなり深刻に忠告されました。

なぜなら誰ひとり株式の過半数をもっていないので、二人が組まないと過半数が取れないわけで、万が一揉めたときには地獄を見るよって言われました。

仲も良かったし”オレらに限ってそんなことない”と思っていましたが、今振り返ると忠告どおり揉めたことは何度もありますね。

起業にはガバナンスが重要

ガバナンス*の話で言うと、一般的には誰か一人が株式の過半数を持っていた方が、いざというときは意思決定しやすいと言われています。

つまりある種の主と従が明確な状態です。

もう一つはほぼフラットにしておく方法もありますが、ここは決めごとが大事ですね。

株の持ち分比率と意思決定プロセスは分けてしまうという方法もあります。

でも自分たちの場合は、今振り返ってフラットにしたやり方が間違っていたかというと、結果的にそうは思っていませんね。

*ガバナンス:健全な企業経営を行うための管理体制の構築や企業内部の統治


続きは後編へ

 ここまで長井さんの起業に至るまでの想い、そしてこれから起業を考えていく方々に向けた具体的なアドバイスについてもお話いただきました。

ここからはより具体的に、資金調達の舞台裏や、いったいTAKTOPIAの豪勢なメンバーをどうやって集めたのかを長井さんに伺っていきます。

少し長くなりますので、続きは後編でお楽しみください!

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また今回インタビューしているSIFの活動については、こちらからご覧頂けます。

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